memo: 2012年11月アーカイブ
翻訳者・清水一登 大いに語る
ジョン・スティーブンスの即興ワークショップ教本『探求と熟考』の面白さ
11月17日(土)に説明会が予定されている、ジョン・スティーブンスの著書『探求と熟考』に基づく音楽ワークショップ。
講師のひとりであり、教本の翻訳を担当した清水一登が語る、その面白さとは。
ジョン・スティーブンスについて
もう亡くなっているんだけど、イギリスのジャズ・ドラマーで、スポンティニアス・ミュージック・アンサンブルっていうグループを長くやっていた人で、録音もたくさんあります。彼は本当にいろんな人と共演していて、デレク・ベイリーとか、エヴァン・パーカーみたいな、イギリスの即興音楽で中心にいるような人たちとは、たいてい何らかの形で関わりがあります。
彼はまた、地域活動にとても熱心で、イギリスのあちこちで興味のある人を集めて、まったく前提のないところから、みんなで即興演奏を楽しむというワークショップを長年続けていたんですよ。この本もそうした活動から生まれたものなんです。
つまり、本が先にあったわけじゃなくて、ワークショップをずっとやっていた彼の経験から、こういう場合にはこういうやり方が面白い、みたいなことを積み重ねて、ひとつにまとめたものなんです。いわば、ジョン・スティーブンスの即興ワークショップの報告書ともいえる本なんですよ。
音をよりよく知るために
本の中身はふたつに分かれていて、第1部がリズム編、第2部が即興演奏編になっています。
まずリズム編では、即興演奏をみんなでやるために必要となる技術とか、考え方について説明してあって、当然ですけどリズムが中心になっています。
どんな内容かというと、たとえば序文にこういう話が出てきます。
二人の人間が歩きながら会話しているという場合を考えてみると、歩調はひとりずつ違うじゃないですか。歩調の違うふたりが会話をするためには、歩調はともかく、同じ速度で進まないと会話は成立しないわけですよね。それで、即興演奏でのリズム的な関係もそういうものだというんです。そういうところから話を始めているんですよね。
そうやってリズムについて説明した後で、次に音程について話すんです。そこにもいろいろ内容があるんだけど、たとえばスケールっていうのは、これまであった文化と関係していますよね。これはもう、どこでも同じで。世界各地に、いわゆる音階っていうものがありますけど、この本に出てくるのは、そういう既成の文化にある音階ではないんです。音階っていう概念を最初に扱うときに、ジョン・スティーブンスはどういうところから考えたかっていうと、微分音程から始めたんですよ。実に興味深い。
たとえば平均律とか、インドのラーガとかにしても、それは特定の文化の中で育まれたひとつの体系であって、なにもそれにこだわる必要はないぞ、ということなんです。
楽器の経験はいっさい不問
具体的にどういうことをやるかっていうと、まずリズムだと、誰かが1って言って、その人の次に誰か2って言ったとすると、それでテンポが始まるわけですよね。それで、練習ではまず誰かが1って言って、2番目の人が2って言う。そこから先は、なるべくそれと同じ間隔になるようにして、次の人は1と言ってみる。そういうやり方から始めて、リズムっていうものを理解していくんですよ。
音階だと、まず「ファ」と「ファ#」があるとすると、その間をなぞっていく。つまり、「ファ」から「ファ#」にゆっくりと移っていくっていう、そういう練習から始めるんです。これは、歌でやります。
楽器できる人でも、基本的には歌でできないとダメなんです。なぜかっていうと、楽器にはそれ自体のイディオムが必ずついてくるから。音そのものを理解することに重点が置かれているので、最初はまず、とにかく楽器をもたないで始めちゃうんですよ。
そもそも、リズムについて説明するのに、先ほど出た、ふたりで歩いているときの話とか、そういうところから説き起こしていく感じなんです。だから、楽器を演奏した経験があったとかなかったとかっていうのは、もう全然関係ないし、前提条件にもなっていない。むしろ、楽器の未経験者の方が自然に入れそうなところもあるくらいで。
最終目標は、音楽作品を作ること
このワークショップの特色は、その中でひとつの音楽作品が作れるってことなんです。つまり、なにを目標にしているかっていうと、複数の人間が集まって、全員が全員の音をちゃんと聴きつつ、それで自分なりの演奏ができる、というような状態を目指すわけですよ。
何度か繰り返して、いろんな技術を身につけていくうちに、自分たちのオリジナルの音楽作品をものにすることができる。そこが、このワークショップの魅力的なところだと思います。
また彼の考えは、いい悪いで判断しないということが基本になっていて、それが重要なところなんです。おそらく、彼もドラマーをやっていて、やっぱりバカにされたりとかあったんじゃないかな。そういうことから、どうやれば他人の演奏に対してジャッジを下したりせず、だけども耳をすませていられるか、みたいなことを考えたんじゃないかな、と思うんですよね。
それで、この本には、集団即興演奏っていうものにどういうやり方で向かっていくのか、そのための手がかりがたくさん入っているんです。ワークショップでは、そうした手がかりをいろいろと試してみて、学ぶことができる。
彼は長年そういうことをコミュニティでやってきたわけです。そこに参加してくれた普通の人たちにとって、とてもメリットのあったものを書き連ねているわけですから、その効果は実証されています。
説明会について
説明会では参加者向けにテキストを用意する予定ですが、まずはさっそく始めてみるつもりです。なにしろ、本がそういうことを奨励していますから。
この本を眺めていても仕方がない。複数の人間を集めて、やってみることで意味が出てくるんだという、そういう考え方ですね。だからもう、どんどん、やってっちゃうと思います。
来る11月17日(土) 17:00start 18:00まで 場所 いずるば(多摩川線沼部下車徒歩5分)
アクセス>>>
「探求と熟考」新年ミュージックワークショップの説明会を行います。
講師 清水一登 巻上公一
参加費 500円
詳しくはこちらまで