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マキブリ
MAKIGAMI BRICOLAGE
創刊号
2000年2月23日
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目次

口上
スケジュール
声帯エッセイ「声を壁に掛けるということ」
音楽NY通信■■加藤英樹

------------------------口上-----------------------------
みなさん、こんにちは。
いざ、創刊という時に、風邪をひいてしまいました。
リチャード・フォアマン・プロジェクト『エジプトロジー』のリーディング、
『マニフェスト』のリーディングはそんな中、無事終了しました。
来月は、3月18日午後5時から『ソフィアの正体』と題して、
初期のビデオを鑑賞します。また鴻英良氏、内野儀氏そして巻上による
シンポジウムを開催します。場所は神楽坂セッションハウス・ガーデン。
そして、4月25日から30日まで、いよいよ『エジプトロジー』の上演が
阿佐ケ谷ザムザではじまります。お見逃しなく。

---------------------スケジュール--------------------------

2月27日(日)午後7時 渋谷セブンスフロアー EPO、巻上公一
       http://www.bekkoame.ne.jp/i/gc4272/

3月8日(水) 午後8時 新宿ピットイン 
      ベツニ・ナンモ・クレズマー

3月12日(日) 午後7時30分 吉祥寺 Star Pine's Cafe Tel: 0422-23-2251
       WORLD HIKASU MODE 21
       出演 ヒカシュー、イノヤマランド

-----------------------声帯エッセイ-------------------------

「声を壁に掛けるということ 」

ヴォイス・パフォーマーとして世界的に活躍する天鼓から連絡があった。
天鼓は7年間のイギリス生活から帰国し、声のワークショップを東京では
じめたばかりだ。その生徒たちのアンサンブルが、ライブハウスで発表をす
るので観に来ないかという。自分も声のワークショップをやっているか
ら、天鼓がどのように教えているかにも興味があり出掛けることにした。

会場は吉祥寺のマンダラ2。
小さなステージに5本ほどのマイクが立っていた。
はじめ二人のパフォーマーがいきなり声をだしながら袖から登場した。
男と女である。
女は高音のキャという声を顎をひょいとあげるようにひきつけのように短く
だした。男はなにやらモニョモニョ系である。意味のない音でつぶやいてい
る。2、3分すると次のデュオが登場し主役を引き渡す。その次はトリオと
パフォーマーが次々に登場し、ステージは黒っぽい服で統一された人々で埋
め尽くされた。すべてが意味のない音声で構成されるのかと思ったら、時折
言葉をまぜる人もいる。それもはっきりとした日本語。それが音として捉え
られているのか、意味として捉えられているのか、パフォーマーはよく検討
していないように思われた。非言語的声帯の快楽の中に言語が入り込むと、
そのベクトルが違ってしまい、音声は居場所が失われるようだ。観客の耳が
非言語を聞き取る耳から言語をつかむ耳に替わってしまい、非言語言語はむ
なしいさえずりのような姿になってしまう。やはり言語は慎重に意図されな
ければならない。

どうやら舞台には最後のひとりが登場した。彼女は悲壮な顔をしている。そ
のしかめつらのソロが少し行われると、うめきながら中央に少しずつ移動し
た彼女に、全員が一斉に集まってマイクをうばいあった。ちょっと冒険心の
ある怖い演出である。

しかし、爆発はほんの一瞬で、その後たらたら自分のポジションに戻るの
だが、「失敗だな」「このあとどうすんだよ」というパフォーマーの男の生
な言葉が発せられ、せっかくの奇妙な演出をちょっと冷めさせてしまった。
こういう生さは調理されていない魚を食べさせられているような感じがする。

ぼくはヘミングウェイの作品「ミシガンにて」をパリのアパートで読んだガー
トルート・スタインがヘミングウェイに言った言葉を連想する。スタインは
作品が生すぎると感じたようだった。
「この作品はいい作品だ。だがこれは壁にかけられないわ」
現実のままでは壁にかけれないし、また壁にかける必要もない。言葉を実
際の人生から切り離すことによって、現実をより的確に捉えることができる。

さて、パフォーマーが出揃うと、エンヤトット的リズムでパターン化された
フレーズの繰り返しになった。そして天鼓の指名によってソロが歌われる。
自由にやるとあのようなリズムになるのだろうか。実に和風である。それと
も意図されているのか。中にはソロで民謡の発声をしている女性もいた。
声のすばやいリレーのようなことも数回行われた。これは天鼓が端の男を指
さすとそこを起点に横を向きリレーする、というものだ。1977年頃、ぼ
くも演劇の練習で同じことを練習したのを思い出す。あのレッスンはイギリ
ス式のものだったから、天鼓が7年間イギリスのエマーソン・カレッジで
演劇を勉強したことを考えると、同じ出所のものかも知れない。

パフォーマンスの時間が経つに従って、パフォーマーは徐々に陶酔してきて
いる。緊張のせいか声のコントロールがうまくいかないところも興味深い。
観客の前に立つことによって、ワークショップの時とは違う感覚を彼らが経
験しているのがわかる。この感覚は恥ずかしいと同時にわくわくする。こう
いう生の感覚は面白いところだ。

ぼくはこんな言葉を思い出した。「声は内蔵である」。彼らはいつのまにか
声という内蔵を見せているのだ。阿鼻叫喚というほどではないが、パフォー
マーはひじょうに苦しい思いを打ち明けているように映る。それはとても素
晴らしい経験だ。

後で、パフォーマーのひとりにきくと、構成はすべて決まっているとのこと。
しかし、すべては知らされず、天鼓の指示によってパフォーマンスしたそう
だ。この演奏のテーマは「森」であったそうだ。それは観客に知らされない
テーマであり、湧き出るものをコントールするために用意された装置なのだ
ろう。最後は森に見たことのない花が咲くイメージだという。

パフォーマンス後、天鼓と話すと、「気合の入れ方間違えたわね」と言う。
どうやら連中はりきり過ぎたのだ。「マイクをはじめて使う人はマイクの練
習もいるわね」。声のボリウムの変化によって距離を変えたりすることは、
初心者にはかなりむずかしい。気分は最高に高揚しているからさらにコント
ロールは困難だ。しかし、試みは十分に楽しめた。

 (2000年2月7日吉祥寺マンダラ2)

巻上公一

■■音楽NY通信■■加藤英樹■■
極寒のニューヨークからのレポートは加藤英樹です。
僕はNY在住のミュージシャン、ベース・プレーヤー。
そもそもこちらに移り住むことになったきっかけは、
’91年NY録音、
巻上公一のアルバム「殺しのブルース」へ参加する縁があってのこと。
プロデューサーのジョン・ゾーンを通じて、多数のミュージシャンに出会い、
’92年6月に移住して以来すでに7年半・・・

このレポートを投稿することになったのもグッド・カルマというもの。
まずは巻上さん、ジョンさんに感謝!
では、さっそく、僕のアーティストとしての活動を簡単に紹介します。

----DEATH AMBIENT----

これは僕、モリ・イクエそしてフレッド・フリスからなるトリオ。
2枚のCD「DEATH AMBIENT」、
「SYNAESTHESIA」はTzadikレーベルからリリース。
即興的アンビエント音楽というアイデアで始めた1枚目、
そして2枚目では
アンビエントに拘らずにアコースティックの要素などを取り入れて、
いっそうユニットとして一体化。
一言でいえば、トリップする音楽! 
日本ではディスク・ユニオンが配給してます。

----SOLO----

ソロCD「TURBULENT ZONE」は、
作曲家、寺崎圭太郎との共同レーベル、
MUSIC FOR EXPANDED EARSからの第一弾。
ソロ・ベースに素数調律を使った
この作品は宇宙に向けて発信するノイズ・ミュージック! 
CDはタワー・レコードあるいはWWW.AMAZON.COMで入手可能。
今年はこの続編としてアコースティック・バージョンを展開予定。

----COLLABORATION----

最後に、作曲家、パフォーマンス・アーティストの
ニコラス・コリンズとのコラボレーションでは、
映像と音を使った作品「THE INVENTION OF TIME(時間の発明)」
をベルギーで発表。
静止画(俳句を写した白黒スライド)が5分かかって動きだしたり、
’40年代の映画をリアルタイムでサンプル、プロセスするなど、
時間のコンセプトを使って遊ぼうというプロジェクト。

以上、今回は自己紹介まで。
次回からは、NYでの生活、僕が参加しているバンドの話、イベント、
友人との茶飲み対談なども交えて「徒然なるままに」キーボードを打ちつつ、
NYの空気を伝えていくつもりなので、お楽しみに!

加藤英樹
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